BODHIの水谷です。
今シーズン、イタリアでカシミヤニットを作る機会を頂きました。企画が始まったのは、ちょうど去年の9月。Made in Italyの響き、今まで憧れでした。仕入れの条件聞いたら清水から飛ぶものでしたが、次いつ作れるか分からなかったので決意。未だにこの思いが皆様に伝わるかソワソワしていますが、そんな思いをここに記録します。(長文失礼します。)ヨーロッパでは通年着るアイテムとして、ジャージの代わりにハイゲージのニットを愛用する方も多く、特にイタリアはニットの産地である為ゲージの種類も豊富です。今回はニットのディテールの良さを残しつつ、通年愛用できる21GGで製作。糸は日本のカシミヤ梳毛糸を使用。日本で作られる糸は均整(糸の凹凸が極力フラットであること)が取れ、特に先染めの色ブレが少ない為、仕上がりの精度に大きなの差がつきます。(日本の仕上げに対する精度は世界一に思っています。)21GGという目の細かさも日本でまず見ないでしょうか。コットンジャージで例えるなら、スビンやギザ辺りの質感を獣毛で産み出せます。そこに極細の梳毛糸を入れるので、目も詰まりよりフラットで光沢ある表面が出来上がります。自分にとってモノつくりを行う上で、再現性ある継続品を続けていく為に原料や工程の所在をが分かっている事はとても大切。(素材の産地を知っておくことと同じです。)もし同じものが出来ないとなっても、どの部分をアップデートすれば良いのか、次を考えることが容易になります。
環境が違えば出来上がってくるアイテムも変わってきますが、今回製作し一番の差を感じたものは、”水”でした。イタリアは硬水で、日本は軟水。ニットを作る過程で最後に製品を水に晒すのですが、この違いが全く異なるアイテムを生み出しました。硬水で洗ったカシミヤは、含有ミネラルが製品の表面を程よく削ってくれるため、毛羽が取れ起毛がほとんどありません。いい意味でカシミヤではないような、麻のようにシャリっとした新しい質感。昔からヨーロッパのニットは雰囲気が違うとか、色が鮮やかだとか言われますが、ちょっとした違い、この硬水によるフィニッシュが大きな鍵なのだと、実際に製作して知ることができました。ほぼ安定した風合いで製品になりますが、イタリア製はたまに個体差もあるそうです。余談でワインの話に飛びますが、この年は美味しいとかそうでないとか聞きます。味のことなので美味しい不味いは大切な事ですが、毎年天候や気候が異なる中、常に安定した味を求めようとすれば、そもそも天然のものでは無くなってしまう…自然をコントロールしようとすることが野暮かも知れません。優劣ではなく、今年はこんな感じなんだ、それはそれで良しとして受け入れてもらえたら、様々な物の(人も)捉え方や楽しみ方が変わりそうです。(もちろん、同じクオリティを出せるようにアイデアを考えるのが私たちの役目であり、変わらず努めていきます。)この話はカシミヤに限ったことではなく、野菜も料理もワインも、何でもそうですよね。同じ種類のものでも形も色も味も全然味が異なるし、ましてや場所が変われば再現出来ない。その着るものや食べるものが人を形成すると言っても過言ではありません。そう言うことを大切にしていきたい。
改めて、何故イタリア製を作ったかと聞かれたら、「本場ニットの産地で、本場のクオリティを作りたい」という純粋な気持ちです。自分で作っておいてなんですが、なかなか高価だけど、やっぱり全然違う。家で作ろうと思っても真似出来ない、食べに行かないと味わえないお店の味。そんな納得のいく、これからの継続品が完成しました。皆さんに親しんでもらえると良いなと思っています。無事に完成して本当に良かったです。残暑の思い出。ちょっとひと段落です。
BODHI 水谷